今までの樹脂やアルミ等のCNC切削加工においては完全なドライ切削を問題なく行ってまいりましたが、鉄材となるとやはり、ちょっとキツイ面もでてきました。

出来る事なら汎用機のようにクーラントをジャバジャバとかけて、やりたいところですが・・・・・

それにも色々な問題がある為に、今回はミスと散布・と言うよりも、もっと少量の切削液を狙った所(刃先)に間欠散布しながら切削する
[セミ・ドライ切削]に挑戦して見ようと思います。

【 セミドライ切削の準備 】
【 ド ラ イ 切 削 】

前回別の特集の為にバイトホルダーを作る事になり、その時にS45C材をハイスエンドミルを使って完全ドライ切削で加工してみました。

幾本か作る中で・時折、間隔をおいて切削液を塗布した場合と違い、左画像の様に仕上がりは惨憺たるものでした。

         (ーー;)


当然、エンドミルの切刃は見る影も無く可愛そうな状態です。
   いわゆる "ボロ・ボロ"です。

経験的に超硬のエンドミルを使えば、かなり改善される事は分かってはいますが私的にはハイスエンドミルの[切れ]も捨てがたく愛用しています。

決して超硬のエンドミルを否定するわけではありませんが金属切削においても超硬エンドミルは万能ではありません・・・・
いわゆる・切削条件によってはハイスエンドミルの方が格段に良い仕上がりを得る事もあります。


そこで・何とか微小の切削剤の塗布によりハイスエンドミルでも見違えるような仕上がりを得ようと挑戦しましょう。

       ヽ(^。^)ノ  レッツ・トライ !
【 機 器 】

切削液の塗布には一般的に専用の[霧化器]と[ノズル]が用いられますが、どの様にしても吐出量が多く機械周りが余剰な切削液でベタベタになってしまいます。

そこで今回は、どこにでもある格安な[ルブリケーター]を使用してみましょう。

[ルブリケーター]とはエアー工具やエァーシリンダ等の使用空気にスピンドルオイルを混合するもので1/4インチ程度の小型のもので数千円程度でしょう。

切削液はルブリケーター下部のポットに入れて使います。
【切り替え】

樹脂などの切削には従来通りエァーパージのみのドライ切削を行いますのでセミドライ用のノズルを別個に取り付け従来のノズルと切り替えて使える様にしましょう。

私の機械の場合、どこでも作業が可能なようにCNCに内蔵したダイアフラム・コンプレッサーの低圧(2Kg/Cm2)空気を使用していますので切り替えバルブは観賞魚用の簡単な三方コックを使用します。
切削液の散布量はルブリケーター上部のアクリル製キャップの中の滴下量とインターバルを見ながら左手前のニードルで簡単に調整できます。

ここが、これの良いところで散布量を調整するのではなく散布間隔を調整できますので微小散布が可能となるのです。

大まかに10秒間に一滴程度の滴下に調整しておきましょう。
【 散 布 実 験 】

これは、よろしくありません。

液の溜りが一気に放出・・・・バラ撒き状態・・・

       (-_-;)

実は、このようになる事は最初から想定していました。 (^^ゞ

先端がピンクの2本のノズルが従来のエァーパージ用ノズルで左側の派手に切削液を吹いているのが今回の新設ノズルです。
【 ノ ズ ル の 工 夫 】

と・言う事で一工夫・・・・・

ノズル先端にΦ0.5mm程度の真鍮線をハンダ付けしましょう。

するとルブリケーターから送り込まれた切削液の滴が真鍮線に徐々に垂れてきます。

滴がある程度の大きさに成長すると一気に『シュワッ〜』とエンドミルに向かってピンポイントで吹いてくれるではありませんかぁ〜


        ヽ(^。^)ノ

これが間欠的に行われるわけです。

   これは良い !

   狙い通りですねぇ〜
     ひょっとして私って○○・・・・

    得意の《自画自賛》    (^^ゞ
【 ルブリケーターの改造 】
【 構 造 】

この特集を参考に実際にやって見て『ルブリケーターがオイルを上手く吸い上げない』・・と言うご相談を戴きましたのでルブリケーターについて補足させて頂きます。   (^^ゞ

一般的なルブリケーターの構造は図@のように元圧がオリフィスで圧縮された後にオリフィス(ベンチュリー)下流で圧力が開放され一時的な負圧となり、その負圧により[霧吹き]と同じように下部に取り付けられた容器内の液体(オイル)を吸い上げて流動気体に噴霧する仕組みである。

(実際には負圧と言うより差圧と言ったほうが適切な表現かもしれません・・・オリフィス手前の下側に開けられたバイパスホールより下部容器には元圧がかかりオリフィス下流との圧力差により押し上げられる・・・吸い上げられる・・という事です)

一般的な[霧吹き]や[霧化装置]と違うところは下部の容器から直接的にベンチュリーに接続されず一旦、上部のポット(サイトグラス)内で滴下させる点である。

この事により使い方によっては間欠的な霧化を行え、図では省略しましたが液を吸い上げるチューブの途中にはニードルバルブが付いており、滴下の間隔も任意に調整が可能です

ここで問題は、今回の使用々途のようにスピンドルオイルとは違い粘性の若干高い液体を使用し且つ元圧が2Kg/cm2以下と低く、まして先端のノズルを極端に細く絞った場合標準のオリフィス(ベンチュリー)径では下流に負圧を発生させずらく(差圧が少なく)液量の調整が非常にピーキィーになってしまう点です。


【 改 造 】

上述した問題点を改善する為に改造を施します。

・・・・と・・言っても簡単な事ですが図Aのように1/4インチ程度のルブリケーターの場合のオリフィス径は
通常Φ6.0mm〜Φ8.0mm程度ですので真鍮丸棒などの中心にΦ3.0mm〜Φ4.0mm程度のキリ穴を開けた物を従来のオリフィス(ベンチュリー)の中に瞬間接着剤などで取り付けオリフィス径を絞れば完成です。

この時のオリフィス径の決定については極力、先端ノズルの有効径(有効面積)以下が理想的ですが実際には圧損(配管抵抗)の問題もありますので若干絞る程度と考えて、私の大好きなカット&トライで決定しましょう。

      (^^ゞ
【 切削液(オイル) 】
【 切 削 液 】

ところで切削液は・・・・・って・・・みなさん思われますよね。

これは粘度が極力低ければ特に何でも良いのですが・・・・・

今回求められるのは微小散布で素晴らしい切削向上が求められますので特別な切削剤をチョイスしました。

この切削液は有志の方(ロックヒルさん始め関東の巨匠方)に[モニターリング]をお願いしておりますがベースオイルに塩素硫黄を添加し、さらにモリブデンを拡散させた高温・極圧・重切削を目的とした[SPECIAL切削液]です。

実は、この為にあるメーカーに依頼して調合した切削剤(液)なのです。

使用量は1時間程度の切削で1cc以下で最大の効果をあげれるように考えています。

この程度の散布でしたらサイクロンポットで集塵をかけれそうですね。  (^。^)
【 切 削 試 験 開 始 】
【切削条件】

  バイトのチップホルダーを切削してみましょう。

Machにツールパスを読み込ませて切削開始。

切削条件は、やや控えめな設定にしましょう。
      F=200mm/mini
      S=4,500rpm
Zの切り込み深さ=初回0.1mm 以降0.2mmづつ

【使用刃物】

使用する刃物はΦ3.0mmのハイス2枚刃のエンドミルを使用します。

手元に新品が有りませんでしたので再研磨した物を使いましょう。
【切削開始】

ルブリケーター側のコックを開け、給油量の調整をしましょう。

ルブリケーター上部のサイトグラスの中で、10〜20秒に1滴程度、滴下するようにニードルを調整します。

量を多くすれば切削条件が良くなるのですがマシーンのテーブル(ステージ)が、ベタベタになりますし、それではセミドライ切削になりませんので僅かに刃物が湿る程度の量に調整しましょう。

前回のドライ切削と同じく S45Cの角棒の切削を試みます。

おっ〜 良いではありませんかぁ〜

期待通り切子をエァーで優しく飛ばし間欠的に切削液を散布しています。

刃物と、その周りが僅かに切削液が滲んでウエッティな感じ・・・・

       ヽ(^。^)ノ

切削に異音は感じられずに細かな切子が順調に出てゆきます。

この程度の湿りであればサイクロンポッドで同時集塵も可能ですね。
切削する事、約30分程度

ワークの下に敷いておいたティッシュに余剰で垂れた切削液が僅かに滲んでいます。

切削状況は開始から終了まで終始一定で安定した切削でした。

2本ほど同じ条件で切削してみましたが仕上がりに遜色は無いようなのでエンドミルの切刃の痛みも皆無のようです。

           (^。^)

・・・・あちゃ〜・・・バイスの口金まで切削しちゃいました・・・・(^^ゞ

でも切削面は2枚刃のエンドミルの切刃により細かく綺麗なクロスハッチが浮き出ています。

ここに切削時の記録動画をおいておきます。
(ちょっとドライブのベルトの音を拾っているようで音が大きいかもしれませんので  m(__)m  )

       20MB位でしょうか (^^ゞ 
【 セミドライ切削の結果 】
【 結 果 】

理想的なセミドライ切削ができました。

連続的な霧化状態の切削液を吹き付ける事無く必要最小限の切削液を間欠的に刃物に吹き付ける事により機械及び周囲を汚す事無く、よりウエット加工に近い最良の仕上がりを得る事ができました。

これで今までmini-CNCでは、どちらかと言うと不得意な分野であった 鉄材(特にS45C・S55C)などの加工においても、加工時間等は別として汎用機と遜色の無い加工が出来る事が証明できました。

と・・・・言う事で【特集】[セミドライ切削の薦め]は完結いたしました。

ちょっとした工夫で、誰しも持っている非力なマシーンでも鉄材の加工が可能です。

今回の特集で初心者の方の加工の幅とスキルが少しでも広がれば幸いと存じます。

 
 (^。^)