【 はじめに 】

旋盤用には、ソコソコ満足できるだけの各種バイトは用意して有るのですが・・・

諸先輩の掲示板でも時折話題に上っていますので久方に
[チップ交換式]のバイトを作ってみる事にしましたので、ご紹介致しますネ

       (^。^)

どうせ作るのですから何か変わった物って考えて
片方は
[真剣]、また片方は[片刃]の二刀流のバイトを作る事にします。
材 料 の 準 備 と 選 定
 【 材  料 】

まずはホルダー本体(シャンク)になる部分ですが、今回はS45C材の汎用キー(スピルキー)を使いましょう。

  サイズは刃物台に合わせて
     15mm × 15mm 角を選択

  価格的には \500〜\800/300mm(1本)程度かな


別に有る程度の太さがあればSS400(一般的軟鋼)でも構いません(逆に加工し易い・・かな?)

但し、ホビー用の旋盤の場合、刃物台のサイズから、どうしても細いシャンクにせざる得ない為に、シャンクの剛性不足になりがちで有り、また切削チップの固定をネジ式にする場合が多い為 SS400の場合、最終的にチップ取付け用の雌ネジの磨耗損傷が考えられます。

・・・で・・・・S45Cで、有れば必要部分に焼き入れを行う事ができる・・・と・・言う・・話になる訳である。

と・言う事で S45C 15mm×15mm角を120mm程度の長さにバンドソーを使って切り出す。

高速切断機(カットグラインダー)での切断は、お勧めできない。
なぜなら、切断時に切断面が焼けてしまい[焼き]が入り後の作業に支障をきたすからであります。

おっと・・・忘れていけないのは[チップ]の入手である。


まぁ〜チップは後で[聖剣 ? ]に加工するので何でも良いのだが・・本来は 30度菱形が一番使い勝手が良いでしょうね。

***・・・聖剣の説明は後ほど・・・・(^。^)


取り合えず今回は[ヤフオク]で左の80度菱形両面タイプ(ネガ・チップ)が格安で出ていたので2セットを落札しましょう。
     合わせて 60個・・・(^^ゞ

新品で10ヶ入り×3ケースで \2,000〜\3,000とは驚きの安さである。

   な・な・んと 1個 \80前後である  (@_@) 

     SNMGO120412-AE

     厚      4.76mm
     穴径    5.16mm
     内接円   12.7mm
     切刃長さ  12.9mm
     ノーズ     1.2mm

 まぁ〜これだけ解かれば何とか寸法は出せるかナ?
寸 法 出 し
 【 寸 法 出 し 】

使用するチップの諸寸法を纏めてみることにした。

いわゆる、切刃と逆側の2面がスッポリと(ピタッと)収まるような座グリをシャンクに施さなければなりませんね。

         (^^ゞ
バンドソーで切り出したシャンク素材である。

  さぁ〜て、どうしたものか・・・・(ーー;)
いわゆる・・・・

  片方が[真剣]・・・もう片方が[片刃]って言う事は・・

ひょっとして、左の赤いハッチ部分のように座グリを入れれば完成じゃないですか ?

・・・・もう完成したようなもの・・・・
     これぞ[完成バイト]・・・なんちゃって

         (^。^)
ちょっと、ちょっと・・・・・そぉ〜だ !

今回使うチップは両面タイプで、逃げ角が・・・無いのです。
  これでは・・・・切れない (ーー;)

すなわち逃げ角分だけ傾けて掘り込みをしなければなりません。

    しかたない・・・6度程度、傾けるかぁ〜

でも片剣側は・・・・ひょっとして左右にも6度傾けるの・・・あっゃ〜

       (ToT)
C N C の 下 準 備
 【ツールパスの作成】

加工は、もちろん私のスパーCNCを使う予定ですのでツールパスを作ります。

Φ3.0mmのエンドミルを使う事を想定して1.5mm切削線よりオフセットして書いて行きましょう。

刃物の被せは60%のオーバーラップを考えて1.0mm間隔でポケット加工する要領です。

チップの当たり面と止めネジ、逆コーナーの逃げ等で、それぞれ加工深さ(Z値)が違いますのでレイヤーを3枚に分けて書きます。

原点は寸法の出しやすい左下隅に設定します。
 【 JWW-CAD 】



上では説明の為にワークの画像上にツールパスを表現しましたが、実際には愛用のJWW-CADを使ってツールパスを書きます。


特にJWW-CADNCVCと愛称が非常に良いようです。
 【NCコードの生成】

ツールパスが完成しましたら、いつものようにNCVCに読み込ませて切削条件を設定しましょう。

F値は取り合えず200mm/mini程度で・・・・・
S45Cのハイス・エンドミルのドライ切削には、チト早すぎるかなぁ〜

         (ーー;)

まぁ〜イイゃ〜  早いようであれば切削途中でF値のスピードダウンといきましょう。

          (^。^)

この要領で、もう片方の[正剣]側もNCコードを作っちゃいましょう〜。
Mach2 の 起 動
 【 Mach2起動 】

NCコードの生成が終わったら、いよいよMach2の起動とプログラムの読み込みです。

・・・・何気に、ここまでの所要時間は1時間程度かなぁ〜
ワークのセット(切削前 下準備)
 【ワークのセット】



次にバイスとワークをCNCにセットする訳ですが、その前に下準備をしましょう〜

  道具はスケールとマジックペンです。


まずCNCのテーブルにバイスをセットする前にバイスにマーキングします。

バイスの口の中に端から約48mmのところにマジックで1本・・・・

次にバイスの先端から約114mmのところに1本・・・



この、マーキングは何の為でしょう・・・・・?
   賢い諸先輩は、もうお解かりのハズ・・・

      (^。^)

   さて良い子の、皆さんは・・・わかりましたぁ〜?
先ほどマーキングした位置にΦ5.0mmの丸棒を置きます。
その上に、そぉ〜っと、ワークを置き、締め込みます。
そしてプラ・ハンでコンコン・コンと浮きを押さえます。

・・・・・(^。^)   そぉ〜デス。

  47.6mm 行って 5.0mm 立ち上がると約6度になります。

別に関数電卓が無くてもCADで作図すれば一発デス。

と・いう事で・・・・・

こちらの傾きも、先程付けました約114mm付近のマーキングの下にΦ12mmの丸棒を挟み込み、後はステップブロックなどを使いバイスをテーブルにガッチリと固定します。
で・・・これで、こちら側の向きも 約6度に設定完了です。

  そうです・114mm 行って 12mm 立ち上がると 約6度になるのです。


         (^^♪

  これで 3次元セットの完了だぁ〜
         
【CNC切削作業完了】


  あとは Mach2 ・・・GO !

自動切削が終わるまで何もする事が無いので・エァーパージとサイクロン・バキュームをかけて・・・晩酌でもしてよぉっと・・・

           (^。^)


  晩酌の合間をみて反対側も切削すれば完了 !!

材料の切り出しからCNCでの切削完了まで所要時間は、おおよそ 3時間程度・・・かな 

           \(^o^)/
飛騨高山の匠  手作業による追加工
 【 追  加  工 】

見事CNCで切削が完了しましたら、次にチップをセットしてチップ下のシャンク部分の逃げ加工を行います。

と・言ってもチップに倣ってベルトグラインダーで、ゴリゴリ削るだけ。

チップは超鋼なので普通の砥石では削れませんので綺麗にチップに倣ってシャンクだけが削れてくれます。

後は下穴に合わせてΦ4.2mmの穴仕上げとM5のタップたてをすれば形状的には全て完成です。
【  黒 染 め  】



せっかく出来ましたので黒染めをしましょう。

今回は、トラスコ(オレンジブックでおなじみ)のクロゾメリキッドを使います。

この液は、[お約束事]を守れば誰でも常温で美しい仕上がりの[黒染め]ができる素晴らしい製品です。


少量の液で済むように今回はペットボトルを使います。

パーツ・クリーナーで脱脂処理した後に本来は酸洗いを施せば完璧なのですが、塩酸を切らしていたものですからクリーム・クレンザーでしっかり洗浄してからの浸漬となりました。
黒染めの反応を促進する為に湯銭にかけます。

・・・・が、必ずキャップを緩めておきます。

   じゃないと・・・・・爆発するカモ ?
液温が上がったせいか反応が早くなりました。


おおよそ30分位で完了します。

後は温水で洗って自熱で乾燥するのを待ってCRCを吹いておきましょう。


   くれぐれも・・・キャップは緩めに・・・(^。^)

〔黒染めのポイント〕(お約束事) 経験的な話ですが、黒染め(この液の場合)のポイントは

 @ 下地処理 (ブラスト、ペーパー、スコッチブライトなどで磨き必ず生地を出しておく)
 A 脱脂(パーツクリーナーなどで表面の油脂を落とす)
 B 脱脂(クリームクレンザーなどの洗剤で洗浄)
 C 脱脂(希塩酸などで脱脂・・・バッテリー補充液などの薄い希硫酸でもOK)
 D 洗浄(温水で充分な洗浄・・・水でもOK)
 E 黒染め液に浸漬(時間はアドリブで)
 F 洗浄(温水で充分な洗浄・・・水でもOK、ブラシなどで擦らない)
 G 乾燥(温水で洗浄した場合は余熱で直ぐ乾きます)
 H 油引き(CRCなど防錆油を塗布)
 I 磨き(艶を求めるならウエスなどで艶が出るまで磨く)

って事で・・・
脱脂がポイントでA〜Cを手を抜かずにやれば誰でも上手くできます。

酸洗いをせず脱脂が不十分な場合、染が厚く付いても後で剥離します。
酸洗いは脱脂の効果も含め鉄の表面を意図的に腐食させ多孔質にし染の食い付きを良くするのかもしれません。
それと作業は必ずゴム手袋を着用する事をお勧めいたします。
それは手荒れの防止ではなく指などについた人体の脂を素材に付着させないためです。

 
* 酸洗いはトイレ用洗剤の[サンポール]でも代用可能なようです。

仕上がりは
液温を高くし浸漬時間を長くした場合→黒色耐熱塗料を吹いたような完全つや消し状態

液温は常温で浸漬時間を短くした場合→ ???・・・拳銃のような感じかなぁ〜

って感じで、やってみてください。
    (^_^)


 【 黒 染 め 完 了 】




・・・・・そんなんで・・・



  黒染めが完了いたしました。


     わ〜い  ヽ(^。^)ノ

      カッチョ・エエ〜 !


この状態からウエスなどで、扱きをかけて磨いてゆくと、何とも言えない[黒光り]になってゆきます。
 【 チップの取り付け 】




取りあえずチップを取り付けてみよう・・・・・
おぉ〜 ええゾォ〜

・・・・でも、このM5のキャップスクリューは
      ハッキリ言って『ダサイ ! 』・・・

それに何かしらチップブレーカーの効能を阻害しそうである。


           (ーー;)


よぉ〜し ボタン型のキャップスクリューに交換しよう。
 明日、手配しようぉ〜




  それにしても、このチップのフィト感・・・
               たまりませんねェ〜


    久しぶりの『自画自賛』 デス


    ワッハッハ〜   ヽ(^。^)ノ
切  削  試  験
 【 切 削 試 験 】

それでは、いよいよ切削試験をしてみましょう。

 材料はSUS304 Φ12mmの丸棒で試験


上の画像は切削油が、纏わりついていて見にくいが非常に綺麗な肌に切削できている。


とは・・言っても、やはり標準のチップを標準のホルダーに取り付けた物のままである。

 そこそこ綺麗に切削できて当たり前・・・・・・(^^ゞ

 そう、驚く事は無い・・・・・。

       まぁ〜こんな物でしょう。 


・・・・・・やはり感動を得るには【聖剣チップ】しかない!

補 足 
【聖剣チップ】とは私が命名した加工チップである・・・
            が・・・実は何と言って大した物では無い。
     ただ、カッコ良い名前を付けたかっただけでございます。
【 聖 剣 チ ッ プ 誕 生 】
 【初代聖剣チップ】

旋盤用チップの選定にあたっては産業界では加工の種類、加工材料等の種類によって厳密に選択されています。

が・我々ホビーストにとっては資金的な面も含め多くの制約があります。

特に重要な要素としては、[靭性を含め長持ちする事]と[繊細な切り込みが可能]で、且つある程度は[材料を選ばずオールマイティーな切削が可能]である事が必要不可欠です。

・・・そこで生まれたのが、セコハン・チップ改[初代聖剣チップ]です。

【旋盤用チップの基礎知識】

《 ポジ・チップ 》
:基準面(下面 とします)に対して側面に角度が付いており角度は、3°11°30°その他と種類は色々あります。

《 ネガ・チップ 》:側面に角度が付いておらず、側面は基準面に対して90°です。

《 すくい角 》
ネガの場合チップ単体では付いていませんが専用ホルダーに取り付けた状態では鋳物用などでは一般的に負のすくい角度になりますが、その他はチップブレーカーが付きすくい角は正になります。
ポジの場合は単体で付いている場合と付いていない場合があります、ネガと同様に、ブレーカーの有無で決まります。

《 用 途 》
どちらもチップ材種、ブレーカーで仕上げ荒までラインナップされており、どちらかと言えば外径加工なのか内径加工なのかで使い分けている場合が多いようです。

《 両面チップ 》
ポジは片面しか使えません、ネガはブレーカーにより片面使用の物もありますが、一般的に両面使用の物が多いようです。また三次元ブレーカーが付いた物は片面使用になります。

 【 チ ッ プ の 加 工 】

靭性を得る為、そして加工材料を選ばない為にはチップの素材は当然[超硬]等の必要性があり靭性を優先するのであればネガ・チップが良いと思います。

ただし靭性の高い汎用のネガ・チップは、一般的にどうもハイス(高速度鋼)やスクイの大きいポジ・チップに比べてキレ(切れ)に欠けてしまう傾向があるようです。
と・・言う事で汎用ネガ・チップに[スクイ][大きく]付ける事にした。

これが、私の勝手に命名した[聖剣チップ]です。

この命名は特に意味は無くカッコ良い・・・かなぁ〜って思って適当につけただけです。
         
 (^^ゞ

それと・・・・素材は刃先の欠けたセコハンチップでも一向に構いません。

作り方は至ってシンプルです。
エァーリューターもしくはマイクロ・グラインダーにダイアモンド砥石(#400〜#800程度でΦ3〜6mm程度)を付けてチップの先端にスクイを付けるように研削するだけです。

この時に特に注意しなければならない事は砥石の回転方向で、繊細な研磨をする為にチップの先端に対して回転すると砥石がシャンク側に逃げたがる方向で研磨しましょう。

逆方向で作業した場合、砥石が滑りチップ先端に逃げて、せっかく付けた切刃を御釈迦にしてしまう可能性があるからです。

勿論、ダイアモンド砥石での研削には切削油を付けて少しづつ研ぎ上げよう。

私の場合は二硫化モリブデンと塩素添加のスペシャル切削油を使用しています。

この研削により必然的に左右の切刃も同時に作られるのでチップ外周の研ぎ直しは不要です。

本来せっかくのコーティングも剥がしてしまうので一見邪道のようですが、加工後の効能を考えると私的にはお奨めの加工です。

・・このような加工によって靭性が高く、かつシャープな切刃を持ち殆どの加工材料に対応できるホビースト向けチップが、セコハン不要チップから変身を遂げるのです。
 【 切 削 試 験 】

先程と同じ SUS304 Φ12mm 丸棒での短面と外周の切削をしてみましょう。

ただし今回は評価切削の為に切削油は使わず完全ドライ切削を試みます。

 で・・・結果は
    名の通り正に『聖剣』・・・です。

  切れない物以外、何でも切れそうです。

          ヽ(^。^)ノ
そんなんで・・・今回の特集は、これをもって完結です。

初心者の皆さんの少しでもご参考になれば幸いです。
(^。^)